24日



 (人類学システムからみた家族構造分析を用いる)トッドの分類によれば、日本の家族構造は<権威主義家族>の地域と民族に位置する。他には、ドイツ、オーストリアスウェーデンノルウェー、ベルギー、ボヘミアスコットランドアイルランド、フランスの周辺地域(オック語地域、バスク地方ブルターニュ地方、アルザス地方)、スペイン北部、ポルトガル北部、韓国、朝鮮、ユダヤ、ジプシー。
 <権威主義家族>の特徴
 ・相続上の規則によって兄弟間の不平等が定義されている――財産の全てを子供たちのうちの一人に相続。
 ・結婚し相続する子供と両親の同居。
 ・ふたりの兄弟の子供同士の結婚は僅少、もしくは無。
 →兄弟間の不平等ゆえに社会空間の非対称的なビジョンを持つ――この家族のなかでは、すべての個人は同等の場所と価値を持っていない。さらに先へ進めると、すべての人間(民族)が平等であるとは考えられないことになる。そこにはあらゆる特殊主義、自民族中心主義、普遍の拒否という特徴が見られる。
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  (第三章 権威主義型) 
  権威主義家族構造は矛盾に満ちている。
 ――権威の原理の実践を欲しながら、規律と同様に無秩序も生み出す。
 ――縦型構造のなかで個人を創りあげるとともに、その個人を押し込めてしまう厳格な家族の中核を産出する。と同時に社会組織のなかの位置がア・プリオリには定まっていない家族集団から排除された自由な人間を生み出す。
 ――不平等を称揚しながら、実際には平等主義的な農民社会の出現を助ける。
 ――男系血縁の継続を主張しながら、女性に大きな役割を与える。
  このような一連の特徴が権威主義家族に、社会への縦型の統合と個人主義的な高揚とが組み合わされた、とりわけ活性力が強い文化的要因を与えている。このような理想を実践している民族のリストは、多くを物語っている。そこには、普遍主義ではないが、人類の歴史のなかで殊に重要で創造的な役割を果たしたいくつもの文化が並んでいる。アテネイスラエル、ドイツがそうである。日本は今日、経済的拡大の力量のよって世界の均衡を揺るがしており(引用者注:この論文の原書は1983年刊行)、そして韓国・朝鮮がその後を追っている。
  これらの社会システムによって提起される主要な問題は――他の人々と普遍的な人間への信仰を同じくすることに消極的であることを横に置くとすれば――彼らの病因となる心理的特徴である。フロイトが彼の理論の主要部分を練り上げたのも、ユダヤとドイツの権威主義家族の症例に基づいてであった。父の権威を意識的に高揚させ、母への尊敬は無意識的に刺激する、規律と個人主義が混ぜ合わされ、ひとりを残しすべての子供たちが排除される、女性の地位を明確に定義することができない、このような権威主義家族は神経症を製造する機械なのである。ナチズム現象、バスクアイルランドテロリズム第二次世界大戦当時の日本人の自己破壊的な外国人嫌いの背後にこの家族構造が活発に機能しているのを見て取ることができる。これはまた規律と不寛容、父への敬意と兄弟への拒否を結びつけた数多くの厳格な宗教現象――ルッター派とスコットランドプロテスタンティズムユダヤ教、反改革派カトリシズム――にも通底する。一六世紀と一七世紀の大規模な魔女狩りにおける権威主義家族の諸形態の役割を検証することができる。しかしながらこのイデオロギー上の暴力は、不可避のものではない。
  なぜなら西ヨーロッパの人口の約四〇%を占める権威主義家族は、イデオロギー的領域では競合しかつ共犯関係にある官僚制社会主義カトリック系右翼の教義を誕生させ、それらがともに第二次世界大戦直後のヨーロッパ大陸の安定化に貢献したのであるから。政治学――アングロ・サクソン型アプローチとマルクス主義的アプローチに二極化された――は、この二つの教義がそれぞれ特殊なイデオロギーであり、その誕生と成長のための固有の法則をもっている様式であると理解することがまったくできないできた。しかし、社会民主主義は、共産主義の軟化もしくは退化した形態ではない。政治的カトリシズムは自由主義の不完全ヴァージョンあるいは単なるブルジョア的アリバイではない。権威主義家族の地域において社会民主主義やカトリシズムに愛着をもつ大衆は、外婚制共同体家族の国々の共産主義活動家と同じように自らの信念には自信をもっているのだ。
  (エマニュエル・トッド著 「第三惑星―家族構造とイデオロギー・システム」 『世界の多様性』所収、荻野文隆訳)