20日




  二段ベッドにすればもっと部屋が広くなるのに。ベッドと壁の狭い隙間にすいこまれるようなふりをしながら、彼が言った。
  部屋がもっと広くなって、それでどうするの?
  いったいどうやったのか、彼はとうとうベッドと壁の隙間に立ってしまった。私が一度も掃除したことのない場所だ。
  二段ベッド、欲しくないの?
  だって必要ないもの。
  そしたら友だちが泊まりに来れるじゃん。
  このベッドが大きいから、お友だちはお姉さんといっしょにここで寝るのよ。
  彼が妙なものを見る目でじいっと私を見たので、私の心はスプーンみたいに折れ曲がった。ほんとに、どうして誰かが私といっしょに寝なくちゃいけないんだろう、船みたいに二段ベッドに一人ずつ寝ればいいのに。マーヴィンズで二段ベッド売ってると思う? と私が訊くと、売ってると思うけど、まずお店に電話したほうがいいと思う、と彼が答えた。私がマーヴィンズの売場に電話をしているあいだに、彼は鏡台の引出しを開けた。顔が赤くなるのがわかった。彼はヘアジェルを出して、ジェルをどっさり手の上にしぼり出すと、あっと言う間にそれをつやつやした黒髪につけて後ろになでつけ、鏡を見た。真正面から強い風に吹かれている人みたいだった。あんまりすごい髪形なので、私たちは顔を見合わせて笑った。マーヴィンズの売場が出て、二段ベッドはたったの四九九ドルですと言った。すごくリーズナブルだと思う、と男の子は言った。ぼくもし百万ドル持ってたら、二段ベッドを百万ドルぶん買うんだ。
 (ミランダ・ジュライ 「ラム・キエンの男の子」 『いちばんここに似合う人』所収、岸本佐知子訳)