27日

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「楽隊の音は、あんなに楽しそうに、力づよく鳴っている。あれを聞いていると、生きて行きたいと思うわ! まあ、どうだろう! やがて時がたつと、わたしたちも永久にこの世にわかれて、忘れられてしまう。わたしたちの顔も、声も、なんにん姉妹だったかということも、みんな忘れられてしまう。でも、わたしたちの苦しみは、あとに生きるひとたちの悦びに変って、幸福と平和が、この地上におとずれるだろう。」

これは『三人姉妹』の長女オーリガが妹ふたりを抱きしめながら劇の最後で言う台詞の始めの部分である。楽隊とは軍楽隊のことで、行進曲が聞こえているわけだ。妹たちは、軍人たちに叶わぬ恋をした。およそ100年前に書かれたこの物語、三人のヒロインを書き分けるのにとても苦労したことがチェーホフの手記でも残っている。そのラストシーンがこれである。白樺の庭に取り残される三人の姉妹が、互いに寄り添って抱き合いながら励まし励まされるなんて、異常事態である。気持ちが悪いだけでなく、ずいぶんと説教臭い、と10年前の私は思ったものだ。だから当時の演出では、亡霊のように、死んだ者たちがうわ言を口にするかのように発することで、ようやくこの台詞を聞けたし、むしろリアリティを感じたものだった。

さて今回、『三人姉妹』をもう一度つくり直してみようと思ったのは、他でもない、これは異常事態ではないということにようやく気がついたからだ。つまり本当はこう聞こえるはずなのだ。

「戦争の音は、あんなに楽しそうに、力づよく鳴っている。あれを聞いていると、死にたいと思うわ! まあ、どうだろう! やがて時がたつと、わたしたちは再びこの世にあらわれて、思い出されてしまう。わたしたちの顔も、声も、バカ三人姉妹だということも、みんな思い出されてしまう。でも、わたしたちの苦しみは、あとに生きるひとたちの悦びに変って、幸福と平和が、この地上におとずれるだろう。」

彼女たちは寄り添うしかないし、抱き合わなければやってられないのである。

(三浦基、地点チラシ『三人姉妹』のイントロダクションより)
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