**********
 彼は本屋で、二時間椅子に座って本を読んだ。併設のカフェに行った。マフィンを買ってそれを食べた。詩集のコーナーに立ち寄ると、ハムスターが隅の方に逃げ込むのが見えた。
 アンドリューは隅の方に近寄っていった。
 ハムスターはアンドリューをじっと見た。
「こっちに来て」とハムスターは言った。
 アンドリューはハムスターの方へ歩いていった。
「こっちだって」ハムスターは言った。わずかに移動していた。
「どこ?」
「ちゃんと見て」とハムスター。
「見てるんだけど」
 ハムスターは小さく前足を動かした。小さくどこかを指さしている。「ここだよ」とハムスターは言った。
「ごめん」アンドリューは言った。「どこ指しているのか分からないや」
「ちょっと待って」とハムスターは訴えた。
 でも勝手に行ってしまった。
「ちょっとごめん」とアンドリューはハムスターに言った。
 ハムスターは振り返った。
 とても小さな前足をしている。
「別のやり方で教えてくれないかな」アンドリューは言った。「頭を振ってそこを指すのはどうだ?」
 アンドリューとハムスターは元の場所に戻った。
「オーケー」ハムスターは「ここだよ」と言って、用心深く壁に近寄っていった。
 アンドリューは膝をついて、ハムスターが頭で指した辺りに触れた。
「秘密の通路があるんだ」ハムスターは言った。「ドアを押して」
 アンドリューは壁を押した。
「待って」ハムスターは言った。辺りを見渡した。「待って、どこか分からなくなっちゃった」
「何だかさっぱり訳が分かんねえんだけど」
「待って」ハムスターは言った。
「何のことかまず説明しろよ」アンドリューは言った。
「そうだね」ハムスターは言った。「公園でならいいよ」
 アンドリューとハムスターは公園に行った。
「地下の世界にイルカの街があるんだ」ハムスターは用心深く話した。「イルカだけじゃない。熊とヘラジカもいるんだ」
「熊とヘラジカね」アンドリューは言った。「そいつらは戦うのか?」
 ハムスターはベンチの上にいた。表情はなかった。アンドリューはハムスターをじっと見ていた。
「戦うのか?」アンドリューは一分後にまた聞いた。「ヘラジカには枝角があるけれど」
「どうだったっけ」とハムスターは言った。数分が経過した。
「もういいよ」アンドリューは言った。「別にどうだっていいし、戦わないんだろうよ」
「いや」ハムスターは言った。「もうちょっと考えさせて。考えるには歩かなきゃ」ハムスターはベンチから降りて、地面の上を歩き回った。
 さらに数分が経過した。
 ハムスターはベンチに戻ってきて座った。
「ハムスターもいるんだ」とハムスターは言った。
 アンドリューは喋っているハムスターを見ていた。
 ハムスターに表情はなかった。
「熊とイルカの街の地下には別の都市があるんだ」ハムスターはのろのろ喋った。「ハムスターの国だ」数分が経過した。「ハムスターは惨めだ」ハムスターは言った。「ハムスターの国の下には……待ってね……間違えないようにしなくちゃ。イルカも惨めなんだ。ハムスターの国の下には……」
 ハムスターはベンチから降りて歩き回った。
「僕ら友だちだよね?」ハムスターは聞いた。
 (タオ・リン『イー・イー・イー』山崎まどか訳)
**********
 ここが一番好き