22日


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 きょうはエイプリル・フールだけど、これからいうことは嘘じゃないんだぜ。あした、出発する。ブラジルにいくんだ。さようなら。まず、ホノルルへ。ついでロス・アンジェルスからマイアミへ。そこで、サン・パウロまでの片道の航空券をうけとることになっている。それからあと、どこでどうなるのか、さっぱりわからない。さようなら。会ってからいきたかったけれど、もうおそい。またいつか、どこかで会おう。それまで元気で。さようなら。きょうの東京は猛烈に寒くて、ひどく頭が痛い。冬と風邪が、そろっていちどに逆襲してきたみたいだ。けれどもあしたはなつかしい心のふるさとホノルルだ。うれしさがこみあげてきて、ぞくぞくする。さようなら。そこからさきは、たぶんずっと夏がつづくのさ。きょう、『ノスタルジア』を見た。舞台はイタリア、なんだかすごくすばらしい作品だった。ロシア人の詩人、通訳の女、ロシア語とイタリア語。あふれる水。犬のマニアックな使用。犬は追憶の重要な伴侶だ。犬が出てくる映画はぜんぶ好きだ。いまのところぼくにとっては、それが映画についての唯一の判定基準だ。ゴダールの『名前はカルメン』の予告篇もやった。予告篇だけで、それがめちゃくちゃにおもしろいってことがわかる。でももうおそい。見ることができない。こんどは、いつ、どこで、そのフィルムに会えるかわからない。ブラジルでもゴダールをやるんだってこと、誰か保証してくれるだろうか。さようなら。機会があったら、ぜひ見といてくれ。それを見たら、ぼくのぶんも、拍手をしたり、大声でわめきちらしてくれ。
 (管啓次郎コロンブスの犬』)
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 こんなすばらしい書き出し、久しく出会ってなかった