27日


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 アズマーラは占いをみてもらおうと、ゼルミーラのところに行った。
「月夜の晩の夕食後に出なおしておいで」そう、ゼルミーラは言った。
 アズマーラはふたたび訪ねて行った。ゼルミーラは、ふすまの入ったお椀をもってきて、彼女を背中向きにすわらせた。ふすまをじっと見つめながら、手に取っては指の間から落とし、皿をまわした。
「ふたつのちがう運命がある」彼女はそう言った。「でもどっちをお前が選ぶのか、わたしには言えないよ」
「両方、知りたいわ」アズマーラが言った。
「ひとつ目は、あんたは死ぬまで処女のまま」
「二ばん目は?」
「ふたつ目は、あんたに息子が生まれるが、その子は三十歳で死ぬ」
 アズマーラは青い顔をして、ふりかえった。
ガリバルドの占いもしてちょうだい」
「遠すぎるよ」とゼルミーラは言った。「正しく見れないね。それにだいたい、あの一家は、時間からはずれている者ばかり」
「あんたが彼のことを考えるのを、わたしが手伝うわ」そう、アズマーラが言った。
 ゼルミーラは、ふすまの中に木のさじを入れて、また、せかせかと占いをくりかえした。ふすまは、まるでだれかがふっと息をふきかけたように、真ん中に穴のある角のような形をつくった。
ガリバルドは三十歳で死ぬ」ゼルミーラがそう言った。「ガリバルドの祖父や、父親や、息子と同じように」
 アズマーラは、ゼルミーラにオリーブオイルのびんをひとつ、手わたすと、大あわてでドアに向かっていった。
「あっ」と、彼女はさけんだ。「でも、もう五年前に三十を過ぎたじゃないの!」
「しかたがない」ゼルミーラが言う。「たしかに占いのお告げは、そう言ってるんだから」
 (アントニオ・タブッキ 『イタリア広場』 村松真理子訳)