1日



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 彼は懸命に話そうとして、また私の言うことを聞こうとして、体を私のほうに傾けていたかもしれない、私は小さな声で話していたから。私たちがどの銘柄のビールを買ったのか、お金と銘柄をめぐって何か行き違いがあったのだがそれが何だったのか、彼が私のビール代まで出してくれたのかどうか、それも思い出せない。もしかしたら私は高い銘柄のビールを飲みたくて二本買い、彼は安いビール二本ぶんの金しか持っておらず、有り金をはたしてそれを買ったのだったかもしれない。彼が何かで有り金を使い果たしたのは確かで、というのもその日の夜か翌日の朝早くに彼の車がガス欠になり、ガソリンを買うお金がなかったので通りすがりの人に一ドル借りたからだ。彼をそれを次の日、図書館でエリーに話し、エリーがそれを私に――ずっと後になってからだったが――話した。
 (リディア・ディヴィス 『話の終わり』 岸本佐知子訳)