26日




 人はどれくらい「あなたと性交(エッチ)したい」というメールを日々やりとりしているんだろう。商売抜きで。往復書簡で? でも手紙だと、先方に届いた時点でそういう気分ではなくなっている可能性が高いから、やっぱりメールと手紙は全然違うものだ、と思った。まして、今のように神経症的なほど迅速な郵便網ではなかったはずで、だから昔の人たちの書簡にはそういう端的なメッセージは遺されなかった。
 最近話題になったある調査結果「16〜19歳の男性の3人に1人がセックスに全く興味がない、むしろ嫌悪感すら感じる」を受けての、週プレの記事で、ある大学研究者がその調査への統計学上の疑問点を挙げつつ、「そもそも若い人たちの間には、セックスに興味がないフリをすることが得であるという認識が広がっている」という内容の指摘をしていて、記事自体はもはや若者は誰も読まなくなった週刊誌全般の記事の傾向に寸分のブレもなく「やはり若い女は我々(想定読者の30後半〜50男)に喰われたがっている!」というお決まりの結びだったけど、あらためて面白いのは、10代後半〜20代にかけての若い男性の「性欲」の全体的な衰退傾向に(おそらく全世界的な)注目が集まっているのは、その本当の理由を誰もがどこか直観的に理解しているからなのではないか、ということだ。それがマス・メディアへの興味の喪失とかなりの部分リンクするものであることも。これまでの男性の「性欲」は、(「若い女は我々に喰われたがっている!」というような)マス・メッセージに呼応して生成する共同幻想だったけど、私たちはだんだん、その「共同性」の不潔さや愚鈍さに耐えられなくなってきている。それを率直に表明しているのが若い男性というだけで、たぶん徐々にではあるが、その「耐えられなさ」は、年齢を問わずすべての男性の「性欲」をこれから侵食していくと思う。かつて「性欲」を共有し、さまざまに社会的な形で謳歌してきた男性たち(あるいはその「性欲」を欲望してきた女性たち)にとって、それは大変寂しいことで、「草食男子」といった冗談めかした言葉にもあからさまに、そのリアルな寂しさから目を背けたいという意向が表れている。
 だけど、そうした衰退傾向著しい「性欲」の現状と、「あなたと性交したい」という直接的な(すなわち孤独な)メッセージのやりとりの総量は、もしそれを調査できると仮定すれば、おそらく相関しないのではないか。