21日


 もしビジネスに面白さを見出すとすれば、それは自己の現実と自己の欲望との関係の中にあるのではなく、そういった欲望の劇や商品に値づけをして販売するという社会的な行動プロセスの背後に非言語的なコミュニケーションが行われているというところから来るのだろうと思います。つまり、ビジネスが提供する人と人との関係性の面白さに起因しているということなのです。
 (中略)ここで重要なのは、ビジネスの舞台では、それぞれがそれぞれのキャラを身にまといながらも、そのキャラを操っている交換不可能な「わたし」という個性が同時に存在しているということなのです。この場合、そのキャラは仕事の内容そのものに基礎づけられており、複数の存在が可能ですが、そのキャラをまとった個性は社会制度や規範や生活環境や自身の欲望というものが編み上げたこの世で唯一のものです。個人はここでは業務遂行的な課題と自己確認的な課題に引き裂かれたような関係にあります。この引き裂かれたような関係こそが仕事の面白さの源泉であり、エネルギーを生み出す源泉であると言えるのです。(平川克美『ビジネスに「戦略」なんていらない』)



   『移行期的混乱』がとても面白かったので、平川さんの前の本も読んでいた。つまり仕事とは、メタ人間関係の上に成立する、ある種特権的な(そして人にとって根源的な)コミュニケーションの場だということ。そうですか、そうですよね、若輩者ながら、なんとなく分かりますよ・・・(追記)って呻き洩らしたくなる非常に背筋の伸びた文章だけど、改めてどこか全体というか、前提というか、ちょっとだけ合ってない靴履いてるみたいな感じの読書だった。自力さんもコメントしている通り、やっぱりそれって「上がり」に近い人間の悟りっていうか、別に20代でもそういう認識を持つことはできると思うけども、そういう認識の方法を知っているということと、仕事をする日々が「自己の現実と自己の欲望との関係」から離陸できるかというのは別問題だ。
 でも本書の眼目はまず、ビジネスから子育てまで何でも戦争のアナロジーで語ろうとする「戦略」ブーム、そしてそれが示す言葉の貧困を批判することなので、それは心から賛同するところです。